最近は一般の方でも、家のことをよく勉強されている方が増えました。インターネットなどで情報を集め、専門的な知識を持って住宅会社へ相談に来られます。
当社でも、「許容応力度計算できますか?」というお問い合わせをいただいたことがあります。なかなか、一般の方からは聞くことのないワードです。
「もちろん、できますよ」とお答えし、その方は改めて当社へ新築の相談に来られました。
何度か打ち合わせを重ね、構造の考え方についてお話しさせていただき、ある程度の関係性もできてきた頃。その方が、ご自身で考えた間取り図を持ってこられました。この間取りが、私が言うところの構造計画ルールに則っているかどうか、確認してほしいというのです。
拝見したところ、柱の位置と開口部を少し移動させれば、きれいな構造区画ができそうだったので、そのようにアドバイスしました。
ところがそれ以降、そのお客さまからの連絡が途絶えてしまったのです。
寂しく思う気持ちがなかったわけではありませんが、おそらく費用の問題などもあったのでしょう。まだ契約前の打合せの段階でしたし、連絡がつかなくなったことを責めるつもりはありません。
ただ、その後たまたま、その方の家の前を通って、私は自分のしたアドバイスを大きく後悔することになります。
ほかの会社で工事が決まったらしく、すでに基礎工事が始まっていました。私が構造チェックをした基礎区画、そのままの形で基礎ができていました。
その基礎の立ち上がりを見た瞬間に、とても申し訳ない気持ちになったのです。
実は構造チェックのあと、実施設計の段階に入ってから、コストダウンのための耐力壁やスケルトン・インフィルの話をさせていただくつもりでした。
これをやるのとやらないのとでは、同じ耐震等級3であってもコストに大きな差が出てきます。
もし、あのとき構造区画のアドバイスだけでなく経済設計の話もしてあげていたら、たとえ住宅会社が変わったとしても、あのお客さまはもう少しコストを抑えて家を建てられたかもしれない。
そんな後味の悪さを感じた一件でした。
実はこの話を、私が構造を学んでいる【構造塾】の佐藤実さんにお話ししたところ、佐藤さんのvoicyでも『施主目線の極み』として、この内容を取り上げてくださいました。
私たちが日々勉強を重ねているのは、ひとりでも多くの方によい家を建ててほしいからです。それは、つかした建築で家を建てる方だけの特権ではありません。
どこの会社で建てても、同じクオリティの家が建つ。それが、これからの家づくりにおける、私たち建築実務者の使命なのではないでしょうか。